モックカーが交通安全のおまもりになるまで

以下の文章は、

2019年7月に、蓼科山聖光寺が発行した「やすらぎ第69号」への寄稿文(原文)です。

モックカーが交通安全のおまもりになったいきさつを書きました。

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子どもたちにクルマの楽しさと安全を伝えたい

日本のソープボックスダービー創業者
NPO法人日本ソープボックスダービー®協会 副理事長
山本君一(やまもと きみかず)

 

 私は今春までの47年間、トヨタ自動車(株)東富士研究所に勤めておりましたが、その傍らボランティアとして、この20年の週末は専らソープボックスダービー(*)競技の普及に充ててきました。
 この競技との出会いや普及の意義、モックカーと呼ぶミニカーの創作、そして今年このモックカーがクルマ型のお守りになったいきさつなど、お伝えしたいと思います。

■ソープボックスとの出会い
 1998年、偶然手にした雑誌でソープボックス記事を目にした瞬間、大好きだった60年代の米国のテレビ番組「ちびっこギャング」が思い出され、同時に「これは今日の子どものF―1レースだ!」と興奮しました。子ども時代、友人と壊れた乳母車や板に滑車を付けて遊んだ記憶も一気に蘇り、日本でも流行らせたいと思い、家内を連れ本部がある米国オハイオ州アクロンを訪ね、国内で活動する準備を始めました。

●レースカーの魅力
 何と言ってもダイレクトフィーリング ― クルマを操る楽しさ・身体中で受ける路面や風の感触― が生きていること。プリミティブな感覚がきちんと残っていて、クルマと会話しながら走行できる点が最大の魅力です。またシンプルな構造で、子どもが大人の手を借りながらも自作できる点もユニークです。

■脳みそフル回転で生まれたモックカー
 しかし当初は、坂道を重力だけで真っ直ぐ走り下りるソープボックスダービー競技の面白さも、シンプルゆえに奥が深いクルマの構造も、世間に伝える術がありませんでした。
そこで、この魅力の具現化のため来る日も来る日も家族でアイディア出しをし、挙げ句に生まれたのがモックカーです。実車の約1/10モデル。木のシャシとタイヤ、紙のシェル(ボディ)でできています。

■楽しさと安全を経験する良い機会
●その1
 子どもたちが、ハンドルとブレーキだけが付いたクルマで一般道を走る。これが私たちが横浜で開催しているソープボックスダービー日本グランプリ(SBD日本GP)です。
主たる目的は国際大会の代表選手選考会ですが、他ではできない経験 ― 自分がクルマを操るワクワク感と、レースカーがきちんとメンテナンスされ安全に正しく走行する大切さ ― を経て大人になってほしいといつも願っています。

●その2
 モックカーを使った子どもたちの交通安全でひらめいたのが、「手作りのクルマ型のお守り」です。
家族が集うひととき、モックカーを作りながら交通安全について語り合い、各々が気を付けようと思うことを紙のシェルに書き印す。完成したモックカーを玄関に飾ることで、交通安全の意識付けの一助にならないか。かれこれ15年近く考えてきました。

■聖光寺さんとにっこりかえる交通安全
 私にとって聖光寺さんは、毎日職場で目にする交通安全のステッカーから身近な存在でしたので、クルマ型のお守りを作る暁には聖光寺さんにご相談したいと常々思っておりましたが、今春、とうとうご関係者様のお力で夢が叶いました。ご住職松久保様はじめ皆様のおかげと心から感謝しております。

■最後に
 私のクルマ好きの原点は、幼い頃に両親とクラウン・ワゴンで地元 愛媛県八幡浜から松山に買い物に行ったり、山口や九州へ旅した楽しい思い出にあります。
親の立場になった今日、こんどは自分が次の世代にできることをしたいと思い、誠実で各自が高いスキルを持つ仲間や猪突猛進・ゼロベース思考の家内と、「子どもたちにダイナミックな夢をプレゼントしよう」を合言葉に、2001年以降、SBD日本GPを毎年開き、今夏までに19名の選手に国際大会の参加権授与と参戦支援を行ってきました。また日頃は各地でレースカーの体験走行会や年間1万組近くの家族が楽しむモックカー工作教室も行っていますが、今後は加えて「聖光寺さんとにっこりかえる交通安全」で、子どもたちにクルマの楽しさと安全を伝えて参る所存です。

(*)直線の坂道を重力だけで走り下りる競技。オールアメリカン・ソープボックスダービー国際大会という米国で1934年から続く子どものカーレース